コロンビアミュージックエンタテイメントの担当の方からご連絡を頂きました。チェコのシュルレアリスト、
ヤン・シュヴァンクマイエルの日本で発売されたDVD10本をまとめたコンプリートBOXが1000本限定で3月26日に発売されるそうです。
▼ヤン・シュヴァンクマイエル コンプリート・ボックス
《鬼才》ヤン・シュヴァンクマイエルのコレクターズ・アイテム
日本で発売されている全ての作品を、メーカーの枠を超えて、特別価格でパッケージした完全限定商品
発売:2008年3月26日(
コロンビアミュージックエンタテイメント)
限定:
1,000セット完全限定
封入特典:オリジナル・ポストカード・セット【非売品】
※シュヴァンクマイエル監督作品ポスター全種類をデザインしたコンプリート・セット。イギリス版ドイツ版「アリス」のポスターデザインも収録。B6サイズ(定形外)、8枚セット。(内容:チェコ版「アリス」「ファウスト」「悦楽共犯者」「オテサーネク」「ルナシー」「庭園(Zahrada)」、イギリス版「アリス」、ドイツ版「アリス」 ※Art design:Jan Svankmajer & Eva Svankmajerova/Zahrada Art design:Jan Svankmajer)
関連サイト:
ヤン・シュヴァンクマイエル コンプリート・ボックス
特設サイト:
ヤン・シュヴァンクマイエル
収録されるDVDは、『
アリス』『
ファウスト』『
悦楽共犯者』『
オテサーネク』『
ルナシー』『シュヴァンクマイエルの不思議な世界』『
ヤン・シュヴァンクマイエル短篇集』『
「ジャヴァウォッキー」その他の短篇』『
「ドン・ファン」その他の短篇』『
シュヴァンクマイエルのキメラ的世界』の10本。コロンビアからリリースされているDVDに加え、ダゲレオ出版からリリースされている『
シュヴァンクマイエルの不思議な世界』やアップリンクからのリリースされ絶版になっていた『オテサーネク』も収録されており、シュヴァンクマイエルのDVDが何枚出ているのか分からなかった方には朗報だと思います。『
シュヴァンクマイエルの不思議な世界』は、4大アニメーション映画祭の中で最も権威があるとされるアヌシーでグランプリを獲得した代表作『対話の可能性』、ピクシレーション(実写のコマ撮り)を用いた『男のゲーム』、地下室や食に対する幼少期のトラウマを盛り込んだ『地下室の怪』、ヤンの作品で強調されることの多い目玉や舌などがユーモラスに用いられた『闇・光・闇』、
エヴァさんが美術を担当したエドガー・アラン・ポー原作の『陥し穴と振り子』など80年代の傑作や、ヤンと同じ誕生日で映画監督のユライ・ヘルツも山高帽を被って登場する『部屋』(ちなみにヘルツの『
ナインスハート』の美術の一部をヤン、オープニングのアニメーションをエヴァさんが担当してます)、チェコ国立博物館の剥製をコラージュしたかのような『自然の歴史(組曲)』など60年代後期の作品が収録された重要な1枚なのですが、Amazonで取り扱いがないなど購入方法が限定されているので、このDVDの存在を知らない方にも嬉しい構成になっていると思います。
個人的には初期の60年代〜70年代の作品が多く収録されている『
「ジャヴァウォッキー」その他の短篇』や『
「ドン・ファン」その他の短篇』が、『アリス』などの人気作品とセットにされているのが良いなと思います。『アリス』を観てヤンのファンになり、その他の作品も観るようになった方は多いかと思いますが、初期の作品までは観ていないという方は多いかと思います。64年の最初の映像作品『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』は、ヤンがそれまで携わっていた演劇での演出の経験が生かされた作品のように思います。ヤンは兵役からもどったあと、プラハのセマフォル劇場のために仮面劇団を結成し、光と闇を利用した演出法も取り入れていたのですが、前衛すぎて観客がついていけず苦い思いをしたそうです。ヤンは映像についてこんな風に語っています。『映画には演劇をはるかにしのぐ点がひとつあります。映画は観客を待つことができるのです。演劇にはできません。これを確信するようになったのは、仮面劇に携わったときです。人びとは理解できず、上映中に席を立ちました−ところが、私の映画は20年間観客を待ちました(『
シュヴァンクマイエルの世界』)。
シュヴァンクマイエルは、検閲が緩やかだった60年代の自由な気運の中で、数多くの傑作が生み出しましたが、70年代に入り所謂「正常化」の中で当局から抑圧され映像の製作を7年間禁じられることになります。映像製作が再開され途中で製作が止まっていた『レオナルドの日記』をつくりあげた後に選ばれた題材は、ランポーの『アッシャー家の没落』。検閲を免れる為か、文学作品を選んでいるものの、生き物のように蠢く粘土や物体のクローズアップ手法など、映像の製作を禁止されていた期間に探求していた『触覚』のモチーフが映像に盛り込まれた実験的な作品になっています。その後の作品にも『触覚』の要素を取り入れ、代表作を作り続けていくことになります。
10本のDVDを入れ替え、作品を時系列観ていくことで、ヤン・シュヴァンクマイエルの作風の変遷を辿ることができます。当時のチェコの情勢などを合わせて調べていくことにより、シュヴァンクマイエルというシュルレアリストを生み出したチェコという国についても知る良い機会になると思います。お得な構成になっていると思うので、気になる方ははチェックしてみてください。
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